第78回ICTサロン
令和3年1月22日(金曜日)、札幌市中央区大通り西3丁目6北海道新聞本社ビル2階の「Sapporo Incubation HUB DRIVE」のイベントスペースから「第78回ICTサロン」をライブ配信しました。
- ゲスト:(初代)札幌市図書・情報館館長 淺野 隆夫 氏
(プロフィールはこちらをごらんください。) - 司会:北海道テレコム懇談会 運営委員会庶務
1 札幌市・図書情報館って?
2018年10月7日、札幌市中央区北1条西1丁目にオープン。
図書館おなじみの小説、えほんのコーナーはなく、WORK(仕事)、LIFE(くらし)、ART(文化芸術)の3つをコンセプトとした全く新しい図書館です。3つのテーマに沿った棚作りを実践しています。本の貸し出しはしません。ビジネスに役立つためには常に最新のものを用意したかったからです。
例えば【WORK_ビジネススキル】の場所に来たとしましょう。そこには「人前で話す準備」「ハラを立てない方法」「上司の苦悩」などニーズを検討し、ひとりひとりの悩みに沿った棚にしています。 【LIFE_医療】の場所には、今はがんの医療情報についての本があり、それだけではなく「身近な人ががんになったら」「メンタル」「お金」「家のリフォーム」など広がっていく悩みや課題に対応した本棚作りをしています。
2 発想の転換はなぜできたのか? 課題を解決する力に必要なものは?
街の中の再開発ビルに図書館を作れるときいて、最初は喜んだのですが、1500㎡しか面積がなく、図書館にとって重要なバックヤードもないという条件が判明しました。
そこで、立地からどのような人が使うのかを考えた結果、街の中で仕事をしている人にターゲットを絞りました。まさにピンチをチャンスに。そういう人たちは今まで図書館をあまり使ったことがない人たちでもありました。
そこで「はたらくをらくにする」を目標にWORK、LIFE、ARTの3つのコンセプトに至ったのです。
そして、ハコニワと呼ぶ小さいエリアを設けて、世の中で必要とされている内容の「特設展示」を行っています。また、一人の司書がテーマを決めて一つの棚を上から下まで作っています。花壇を作って世話をする感じです。司書には“自分というものをどんどん出すように”と言っています。ここは普通の図書館と違うところかなと思います。「○○がない」を恐れずに。
図書・情報館を課題解決のために使う人について考えてみると、課題というのは時としてあいまいなものです。図書館ではレファレンスインタビューをし、Q&AのQ、自分は何が欲しかったのか、をはっきりさせるお手伝いをします。そして必要な本を差し出すことをします。さらに専門家を紹介するということを行っています。
3 コロナ前、コロナ後の図書館、今は窮地なのか?
確かに来館者は減りましたが、増えているのがデジタル図書の貸し出しです。コロナで閉館中は、前年比230%まで借りられていました。再び開館するようになり、貸し出しは減ってしまうかと思いましたが、前年比150%となっていました。
電子図書にみんなが慣れて、ユーザーになってくれたと感じました。内容は、料理、パソコン、絵本が多く、図書館は趣味だけではなくて、コロナの中で市民の生活をサポートしていることを実感しました。
コロナによる閉館中は、「図書館を止めるな!」の思いで、何もしないのではなく、電子書籍の絵本に司書が声を吹き込んだものを作り好評でした。 コロナ前は、来館型・紙書籍がベースで、余力の部分でデジタルだったけれど、これからは、デジタル・オンラインがベースで、そのほかに来館型・紙+スペシャルなサービスというスタイルになっていくと思います。
4 図書館とオープンデータ
図書・情報館では、本の返却は、館内に10カ所以上ある「返却台」に置いてそのまま帰っていただくことができます。本にRFIDタグがついていて、返却台にはセンサーがついています。借りられた回数を得ることができ、それを分析すると世の中のニーズが見えてきます。返却数の多い時間帯にスタッフを増やすことなどもできます。
5 デジタル化の中で地域の図書館はどう発展していけるのか
本をどうやって届けるかということです。情報やデータは大事ですが、昔読んだ小説の一節に助けられることがあるように、そういったものも必要なのです。
今のひとたちはデジタル世代なので物心ついたときからタブレットなどが身近にあります。そこを入口として、もっと昔の本、それは紙かもしれないし、そういったものを求めて図書館に来るのではないかと思います。
地域の資料、私たちは郷土資料と言いますが、図書館にしかないものが多いです。貴重なものだと言って書庫の奥にしまっておくとなかなか利用されない、かといって一点ものなので大切に扱わなくてはならない。それらをデジタル化すれば存分に見ていただけると思います。また、地域でビジネスを展開する人は、地元の成り立ちを学ぶということが役に立つかもしれません。
図書館は、図書の館と書きますが、人と会って話して何かを作るというのは、どこでもできるけれど、調べられる資料がそばにあると話が豊かになります。そんな空間がまちの中にできると思います。
検索はとても大事ですが、本は出版の際にリスクチェックをして査読もしているのでネットより深い知識を得ることができます。ビジネス支援もしているので必要な文献を探すお手伝いもします。
私たち図書館は、50年、100年ものの情報を持っている所です。そして毎日通えます。情報探索を支えるスタッフが常にいます。ここにICTの力を活かしてネットワーキングができ、人と人がつながって何かを生み出すことになっていくと思います。人々の中のベストバージョンを作るお手伝いをするのが図書館の仕事だと思います。
最後になりますが、使っても使っても枯渇しない唯一の資源は、なんでしょう。
それは、「人間のイマジネーション」。
誰かの優れたイマジネーションを楽しめるのが、本であり図書館ではないでしょうか。